1.わたしたちの思い
世田谷区手話言語条例の前文に掲載の通りですので、一部修正の上、引用させていただきます。
手話は、手指の動き及び表情を用いて、物の名前、抽象的な概念等を思考し、伝達する独自の文法を持つ一つの言語であり、手話を必要とする者が知的かつ心豊かな生活を送るための言語活動の文化的所産です。
一方で、我が国では手話が言語であることに対する理解が十分であるとは言えず、過去には手話の使用について様々な制約を受けてきた歴史があります。その中でも、手話を必要とする人々の中で手話は生き続けてきました。
こうした背景の下、手話を必要とする乳幼児から高齢者までの様々な世代の人々が地域で安心して暮らすためには、言語として、手話の獲得をし、手話を学び、手話で学び、及び手話を使うことができる環境を整備し、手話を継承していくことが必要です。
情報コミュニケーションにおいては「コミュニケーション手段の選択が出来ること」が保障されるべきです。
世田谷区は、手話が言語であるとの見地から、区民及び事業者の手話に対する理解を促進し、及び手話を使いやすい環境の整備等を進めることにより、手話の普及を図り、もって手話を使う人のみならず、区民及び事業者の全員が共同して、ろう者その他の手話を必要とする者の権利が尊重される地域共生社会を実現するために、この条例を制定します。
2.手話言語条例検討までの流れ
障害者団体を対象に、「障害理解の促進及び障害者の差別解消、手話言語などの情報コミュニケーション等に関する条例制定に向けた考え方についての説明会」が2021年10月12日に行われ、「地域共生社会の実現を目指すうえで、障害理解の促進や障害者の差別解消、手話言語などの情報コミュニケーションについては各々が手法として不可欠なものである。そのため、これらを一体に取り組むために、同一の条例の中に位置づけ、施策を推進することが適切と考える。」との説明がありました。
当協会からは、「差別解消と情報コミュニケーションは一体化してもよいが、手話言語も一体化することには無理がある。手話言語は言語であるが故に習得も大変。10年かかる場合もある。また言語であるので、配慮や対応が必要な分野は福祉だけに留まらず、社会全体、文化全体に及ぶ。よって、みんなで一緒につくる条例と、手話言語条例はわけて制定すべきである。」との意見を出しました。
また、新条例制定に向けて、当協会だけでなく、手話サークルたんぽぽ、手話サークル輪の会、世田谷区登録手話通訳者連絡会とも学習を重ねてきました。区とさらに意見交換を進めて、当協会からは、
きこえない人は一人ひとりコミュニケーション手段がまちまちで、手話言語か日本語かまず選択し、日本語の場合はさらに手話か筆談か等を選択する。視覚障害者は点字か拡大文字か、読み上げを選択することになる。盲ろう者は触手話や指点字などの選択になる。他の様々な障害者もわかりやすい日本語やるび、コミュニケーションボード(イラスト)などの手段がある。これらの選択を保障することが情報コミュニケーション条例が目指す整備の一つになる。一方、手話言語条例は言語の選択が出来る環境を整えること、手話言語の理解、普及を進めることであり、土台となるところが全く異なる。世田谷区のノーマライゼーションプランなどの体系は福祉・医療分野を包括するものと思うが、言語というのは社会全体をカバーするもので、情報コミュニケーションと手話言語は分けて推進すべき。と訴えました。
結果として、手話言語に関する条例を独立させて別途検討することとし、新条例に情報コミュニケーション条例を含める形で、「世田谷区障害理解の促進と地域共生社会の実現をめざす条例」として、2022年9月30日に成立し、2023年1月1日に施行されました。
そして、2022年5月26日の福祉保健常任委員会で独立した手話言語条例の制定を検討することを報告、2022年11月11日の福祉保健常任委員会で条例制定に向けた検討を開始することを報告し、手話言語条例の検討が始まったのです。
区における手話言語の基本的な考え方や必要な事項等を定めるための条例制定に向け、学識経験者や手話を必要とする当事者等で構成される条例検討会(以下「検討会」という。)、障害者団体、障害者施策推進協議会等から意見をいただき検討を進めてきました。
検討会は下記の委員構成となりました。
学識経験者 朝日 雅也(会長) 埼玉県立大学 名誉教授
学識経験者 金澤 貴之 群馬大学 共同教育学部 教授
手話を必要とする当事者 唯藤 節子 NPO法人 世田谷区聴覚障害者協会 会長
手話通訳者 池田 幸江 世田谷区登録手話通訳者連絡会
障害者団体代表 村井 やよい(会長代理) 世田谷区障害者団体連絡協議会 会長
区民委員 木原 由起子
区 須藤 剛志 障害福祉部長
区のホームページに掲載されている検討会の報告→https://www.city.setagaya.lg.jp/mokuji/kusei/002/d00202941_d/fil/7.pdf
3.手話言語条例検討の流れ
2022年12月16日 第1回検討会
2023年1月25日 第2回検討会
2023年2月10日 福祉保健常任委員会 条例の検討状況を報告
2023年5月30日 福祉保健常任委員会 条例(骨子案)を報告
2023年5月31日 第3回検討会
2023年6月9日~6月30日 パブリックコメントを実施
2023年6月14・15日 手話言語に関するワークショップ開催
2023年8月23日 第4回検討会
2023年9月6日 福祉保健常任委員会 条例(素案)を報告
2023年9月15日 パブリックコメント実施結果の公表
2023年10月11日 第5回検討会
2023年11月 政策会議・福祉保健常任委員会で条例案を報告
2023年12月7日 区議会第4回定例会で条例案が可決、成立。
2024年4月1日 条例施行
※バプリックコメントと区の回答について
区のホームページに掲載されています。
https://www.city.setagaya.lg.jp/mokuji/fukushi/002/015/d00203431.html
4.条例に基づく取組みについて
手話言語条例制定後の実施予定内容は下記の通りとなっています。
協会も区と相談しながら手話カフェなどの新たな取り組みを目指していきます。
(1)2024年度に予定する主な取組みについて
①くみん窓口、出張所等における遠隔手話通訳の実施【新規】
・民間企業が提供するシステムを導入し、各総合支所のくみん窓口、保健福祉課、各出張所の窓口に配置した二次元バーコードを来庁者がスマートフォン等で読み込むことで、遠隔の手話通訳者につなぐ。
②区役所における待機手話通訳者の配置時間の拡充【拡充】
・手話を必要とする区民のための手話の環境を整備するため、待機手話通訳者の配置時間を拡充する。
③手話講習会「手話体験教室」の拡充【拡充】
・非音声言語としての手話の魅力や重要性等を学び、理解を深めることを目指し、手話を学び始めたい方を対象とする「手話体験教室」の回数を拡充する。
④区報「区のおしらせ」に手話の普及啓発のための紙面掲載(原則月1回)【新規】
・区のおしらせ「せたがや」に手話イラストを掲載し、手話の普及啓発、理解促進をはかる。
⑤手話通訳者の処遇改善【拡充】
・手話通訳者を手話という言語と文化を理解したうえで、日本語を話す人と繋ぐ専門職として改めて評価し、報酬金額や交通費等の取扱いについて見直しを図る。
(2)2025年度以降に向けて検討している主な施策例
①区立小学校における手話の普及や理解促進に関する啓発
②手話への理解促進に向けた動画配信
③区職員向け手話講座の実施